導入事例

北海道大学病院様 PACS連携による
Web動画配信システムの有用性と今後の期待

北海道大学病院様

要旨:当院では、既存のPACSとの連携によるWeb動画配信システムを導入しシネアンギオ動画の院内配信を実現した。このWeb動画配信システムは透視画像の他、内視鏡や術野カメラなどの映像にも対応可能となり、新たな動画配信方法として期待される。

北海道大学病院 放射線部 上田 俊一様に執筆いただきました。
月刊新医療2015年1月号からの転載文

導入製品

当院では1999年の循環器用血管造影装置導入に伴い、SIEMENS社のDICOM動画サーバ(ACOM NET SYSTEM)を設置し、心血管造影検査を行う診療科および血管造影室に設置した同社のDICOM動画ビューワ(ACOM PC)と専用ネットワークで接続することで診療科におけるシネアンギオ動画の参照を可能とした。 当時、PACSシステムは既に稼働しており、各種放射線画像の参照が可能となっていたが、シネアンギオ動画については画像ファイルの容量や、画像配信時のデータ転送速度などが問題となり、PACSシステムへの画像配信は行われていなかった。
2008年、DICOM動画サーバの更新に当たり、Photron 社Kada-Serve と同社のDICOM動画ビューワKada-View を導入した。PACSについてはサーバの容量や院内ネットワークの画像転送速度などが改善されたことから、翌年よりシネアンギオ動画の配信を開始している。
しかし、当時のPACSにおける動画参照の機能は貧弱であり、ネットワークの転送速度や医療情報システム端末の処理速度も十分ではなかった。画像の転送時間が長く、スムーズな動画再生もできていないことから、診療科からは臨床での動画参照には使用できないとの指摘を受けていた。
12年、循環器用血管造影装置の更新に伴い、Photron 社Kada-View Web を導入し、Web配信機能と既存のPACSを連携させることで、シネアンギオ動画の配信を開始した。また、同社の循環器用レポートシステムKada-Report も同時に導入し、同様にPACSからのWeb参照を可能とした。さらに翌年の医療情報システムの更新時には、これまでPACS配信されていなかった、心エコーを含む超音波検査における動画についても新たに専用のDICOM動画サーバを導入し、シネアンギオ動画と同様にWeb動画配信を開始した。

Web動画配信のシステム構成

当院には、放射線部に循環器用血管造影装置1台(東芝メディカルシステムズ:INFX-8000V)、汎用血管造影装置2台(シーメンス:Axiom Artis dBA, 同:Artis Zee Ceiling)、手術部にハイブリッド手術室対応血管造影装置1台(東芝メディカルシステムズ:INFX-8000H)の計4台が設置されている。これらは全てDICOM動画サーバKada-Serve と接続しており、シネアンギオ画像の送受信が可能である(図1)

図1 Web 動画配信システム構成図
図1 Web 動画配信システム構成図

DICOM動画ビューワKada-View は循環器内科と小児科に各1台、ハイブリッド手術室に1台、血管造影室に2台設置されている。心機能解析ソフトCAASもフローティングライセンスにて1ライセンス導入しており、各端末で使用可能となっている。血管造影室の2台についてはサーバを介さずに循環器用血管造影装置から直接画像を自動転送することで、撮像直後の画像参照を可能としており、検査と同時並行でLVA、QCAなどの解析や、レポート作成を行えるようにしている。
また、検査室内のモニターへの画像出力も可能となっており、過去画像や撮影直後の画像、解析結果などを表示することができる。 Kada-Serve および、PACSサーバにはサーバ容量の消費軽減を考慮し、検査終了後に必要な画像のみを選択して保存している。また、血管造影室に設置されている血管内超音波装置IVUS(Boston Scientific iLAB)、血管内光干渉断層装置OCT(St.Jude MedicalILUMEN)や心エコー装置(GE:VividQ)、ポリグラフ(日本光電:RMC-4000)についてもKada-Serve と接続し、画像を保存している。

図2 PACS から展開するKada-View Web 画面
図2 PACS から展開するKada-View Web 画面

Kada-Serve では、血管造影装置から画像を受信するとDICOM動画を自動的にWMVファイルに変換しサーバ内に保存する。同時にサーバからPACSへ登録通知が送信され、PACSマトリックス画面上にはサムネイル画像が作成される。このサムネイル画像をクリックするとWeb配信用動画ビューワが開き、Kada-Serve に保存されている各種画像の参照が可能になる(図2)。このWeb配信用動画ビューワは検索機能も有しており、参照中の患者の過去の画像をPACSマトリックス画面に戻らずに参照することも可能である。

PACS連携の利点

Kada-View Web によるWeb動画配信システムを既存のPACSと連携して導入することによる最も大きな利点は、低コストで院内全体へのシネアンギオ動画配信が実現可能となることである。これまで、シネアンギオ動画を院内の複数部署に配信するためには、専用動画ビューワ端末の設置およびネットワーク環境の整備が不可欠であり、多くの費用を必要としていた。Kada-View Web ではWMVファイルに変換したシネアンギオ動画をKada-Serve 内に保存管理し、Web動画配信する機能を持たせることで、コスト面での問題を解決している。
Web配信用に変換されるWMVファイルの容量は、最大でDICOM動画ファイルの6%ほどに圧縮される。通常の心臓カテーテル検査1件で発生するDICOM動画ファイルの容量は200〜400MBである。これを12〜24MB程度まで小さくすることで、ネットワークへの負担は軽減され、専用のネットワーク回線を使用せずにストレスのない動画参照を可能としている。
また、参照時に使用するビューワもInternet Explorer 上で動作するため、新たなソフトウエアの導入やライセンス費用も不要としている。このWeb配信用動画ビューワはKada-View と同様の参照機能と操作性を備えており、普段Kada-View を使用していない者でも直感的に操作できる。MWVファイル変換後の画質については参照用としての使用であれば十分なレベルを維持しているが、より詳細に画像を確認したい場合には、PACSビューワを同時に開き、DICOM元画像と並べて参照することも可能である。
現在、医療情報システム端末は外来や病棟、各検査部門など院内のほとんどの部署に設置されており、医師は院内のどこにいてもシネアンギオ動画の参照が可能である。手術室での参照や外来で患者説明に使用したり、複数の医師が別々の端末上で同時に参照することも可能である。
コメディカルにおいても、心血管造影検査に関わる診療放射線技師や臨床工学技士、看護師が自由に画像の参照を行えるため、検査予定患者の過去画像の確認などを効率よく行えるようになった。特に、心血管造影検査において必要不可欠な検査でありながら、これまでPACSで参照ができていなかったIVUSやOCT、ポリグラフの画像が医療情報システム端末上で参照できるようになったことは、血管造影室以外のさまざまな部署で業務に携わっている臨床工学技士らにとっても、大きな利点であると思われる。

Web動画配信システムにおける今後の展開

 
PACS連携の動画配信システムにおける今後の展開として、当院の血管造影室でも導入を検討しているのが、透視画像の録画配信システムである。 血管造影装置やX線TV装置には、手技の経過を記録するために透視画像を録画保存するための機器が備えられている。使用される録画機器は装置メーカーによって異なり、HDDレコーダやDVDレコーダを使用している。HDDは録画容量に限りがあるため、定期的に古い画像を消去する必要があり、DVDの場合も録画済みディスクの保管管理やコストのことを考慮して、DVD + RWやDVD– RAMといった再録画可能なメディアを使用して一時的な保存にとどめている。いずれの場合も保存期間は数ヵ月から半年程度で、長期的な保存はしていない。
また、これらの機器で記録した動画を参照する場合、HDDや録画済みディスクから画像を探し出し、録画装置本体で参照するか、DVD– Rなどに記録し直すといった煩雑な作業が必要であることから、ほとんどの透視画像が参照されることなく消去されている。
しかし、こうして消去される透視画像には研究や学会発表への利用や、カテーテルや血管内治療に使用される各種デバイスの操作法の指導、新人技師が検査手技の流れを習得する時の教育に使用するなど、さまざまな利用価値があると考える。
このような、従来の透視録画機器における画像の保存管理や参照時における煩わしさを解消し、透視画像をより有効に活用するためのシステムとして期待しているのがPhotron社のKada-Rec である。このシステムでは血管造影装置から出力される透視画像を専用端末でWMVファイルに変換し、DICOM動画サーバに送信することで長期的な保存を可能としている。さらにDICOM MWMにより取得した患者情報を録画画像に付加することで、Kada-View Web と同様にPACSと連携した動画配信も可能としている。
画像の取り込みにはDVI端子とビデオ端子を使用しており、内視鏡や外科用CアームX線撮影装置、術野カメラなどの映像も保存可能であり、収録中の動画をライブ配信する機能も備えている。また、一般的なビデオカメラやDVDなどのメディアに保存された動画も取得可能であり、透視画像以外の映像の録画、配信にも対応可能となっている。
今後はこのようなシステムを用いて、臨床で使用されるさまざまな映像をPACSと連携させて院内に配信していくことも検討していく必要があると考える。

新たな動画配信方法のひとつとしてシステムに期待

医療情報システムおよびPACSシステムの普及により、X線画像をはじめとした多くの医療画像が院内各部署で参照可能となっていたが、シネアンギオ動画のPACS配信はそのデータ量の大きさから実現が遅れていた。今後、PACSビューワにおいてもシネアンギオ動画の参照に十分な機能を備えてくることと思われるが、システムの更新には多額の費用が必要となる。
既存のPACSと連携可能なWeb動画配信システムは、低コストでシネアンギオ動画の院内配信を実現し、心血管造影検査に携わる医師、コメディカルの業務の効率化に貢献している。さらには、臨床で使用されるさまざまな映像の配信の実現へと機能を拡張しており、新たな動画配信方法のひとつとして期待されるシステムである。

上田俊一(うえだ・としかず)
●67年北海道生まれ。89年北大医療技術短期大学部診療放射線技術学科卒。同年同大病院歯学部付属病院放射線室、04年放射線部勤務。08年血管造影室主任技師、14年放射線部副技師長。

北海道大学病院 放射線部 上田 俊一
北海道大学病院 放射線部 上田 俊一

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